六本木ミッドタウンのサントリー美術館にて

「ざわつく日本美術」展

サントリー美術館

単に壁や台に飾ってある作品を眺めるのではなく、いろんな角度から作品を観ることで

今までとは違う作品の見方を発見し愉しもうというもの。

 

プロローグ

「美しい」の一言では表現しきれない胸の奥のざわめきを紐解く

いの一番は代表作に抜擢されている「尾上菊五郎 おがみきくごろう」

氏の絵がずら~と並べられているんだけれども

ざわつく日本美術

目の部分を切り抜いてあって、一段奥に金色の瞳が設置されている。

ざわつく日本美術

故に自分が移動すると菊五郎の視線も一緒に移動する!という仕掛け絵。

さながら鎌倉 建長寺の雲龍図のような‥?

尾上菊五郎 右向いて

右向いて左向いて

尾上菊五郎 白目剥いて

白目も剥いてくれる。

(それよりもこの眉毛にざわざわ‥じわじわ‥するのは私だけ…?

 

うらうらする

触れない展示品だとその裏や底、中を見ることは出来ないけれど

でも本当はその見えないところにも仕掛けや工夫が成されているよ、という展示。

広告にも取り上げられていた「色絵五艘船文独楽形鉢 いろえごそうせんもんこまがたばち」

これ、展示の方法が、寿の文字が、見えませんでした…?(?)

作品としては、オランダ商戦が5艘あって、海を越えて珍しい宝物を運んでくる宝船を絵にした高台の鉢とのこと。

 

「こぎん刺し」 とっても綺麗で素敵だった!

うらうらする

江戸~明治時代、青森県津軽地方の農村で生まれた技法。

津軽地方の女の子は7、8歳になると刺し始めて一人前になるとその妙技を競ったのだそう。

下図は一切無いそうで脳内に描いた図を形にするという凄い技!

しかも裏表そのどちらから見てもとても美しいという‥!

 

藍色染めの麻布の縫い目を木綿の白糸で拾いながら一針ずつ刺して模様を表す技法。

刺し子の方法を調べてみると基本は波縫いで線を描いていく刺し方のようだけど

ただ波縫いを重ねていけば出来るという単純な話ではきっと絶対にない‥

こぎん刺しは、当初は陽に透けるほど薄い麻布の補強や防寒が目的だったものが次第に 藍と白の対比が美しい幾何学模様をあしらうという、機能とデザインの両方を持ち合わせた物に変化していったとのこと。機能だけ求めていたらこの美しさは出来ていなかったかも知れない…!?

 

盃を載せて客人にお酒をすすめるための台、「色絵菊文透盃台 いろえきくもんすかしはいだい」/尾形乾山

尾形乾山

表面は菊、裏面は流水、そこに酒を注ぐ‥

尾形乾山

そう、9月9日重陽の節供にまつわる詩歌の詞が隠れている盃台なのです!なるほど。

尾形乾山

底面の文字「乾山」は作者名

この華やかな盃台にどんな色形の盃を載せたのだろう。

そして菊の花びらを散らし月を見ながら一献、一句…風情がありますね

 

ざわつく日本美術

「邸内遊楽図屏風 ていないゆうらくずびょうぶ」

その裏面には17世紀江戸時代から今なお受け継がれる鳥襷文(とりだすきもん)のあしらい

邸内遊楽図屏風

屏風絵の中にも空間の仕切りとして鳥襷文の屏風が見て取れるのが面白い‥!

鳥襷文の屏風

 

展示はうらうらするコーナーなんだけれども一番ざわざわしたのがこれ。

ざわつく日本美術

尾形光琳の秋草図屏風をバックに能面が浮かんでいる!!

なんともシュールでざわついた‥✨

 

「能面 小面」一番若い女の人の面

能面小面

お歯黒で眉と目の間が広いんだな~というのに対し

「能面 山姥」山姥と仙女の反する面を備えているそう。

能面

歯が金色で目玉もキンキラ。眉が近くて目には堀がある。そして鼻の穴がデカい。

普段見られないそんな能面の裏面は!?

能面の裏側

ガラスケースは撮影が難しい…

内側は汗や汚れ防止に漆が塗られているとのこと。ちょっと怖い!

鼻の穴の大きさが際立つな…裏面から見るとなんだか愛嬌が感じられる。

 

ちょきちょきする

元々はくっついていた作品を切断して今の一つの形にしているのかも!?という作品を原型を予想しつつ再現して紹介してくれるコーナー。

 

13世紀鎌倉時代を代表する肖像画「佐竹本・三十六歌仙絵 源順 さたけぼん・さんじゅうろっかせんえ みなもとのしたごう」

巻物

人物:笏を持つ手に頬をあて沈思する源順

和歌:水の面に 照る月浪を かぞふれば 今宵ぞ秋の最中なりける 源順

(みずのおもに てるつきなみを かぞうれば こよいぞ あきの もなかなりける)

意味:小波が立つ池の水面に照り映っている月を見て月日の数を数えて見れば、今宵は秋の最中の八月十五夜であった。だから月は見事なのだ。

 

本来は36名の和歌の名人たちを描いた上下2巻の巻子(かんす)だったものを1名ずつ切り離して配られたのではないかとされる掛け軸。

この巻物の成り行きはというと…

1919年大正8年に歌仙ごとに分割される

⇒くじ引き(くじ引き!?)によって諸家へ分配される

⇒各所蔵者が各々引き当てた歌仙を思い思いに掛け軸に仕立てて愛でる

 

この本紙の旧蔵者、高足箒庵が和歌と合わせた流水を想起させる墨流し模様の紙で表装して掛け軸と仕立てたと考えられていて、作品への深い敬愛委が見て取れるひとつとなっている。

 

じろじろする

よく見よう、時には心の目で!という展示。

刺繍の着物

すっごく細かくて綺麗で、これ手縫い!?と驚かずにはいられない精密な刺繍がたくさん散りばめられている「黒綸子地宝尽竹模様腰巻 くろりんずじたからづくしたけもようこしまき」

 

説明書きにも一工夫してあって、絵を使っていたり剥落してるものだと文字も掠れていたりと文字も楽しめる作り。

 

「鍍金龍文螺鈿説相箱 ときんりゅうもんらでんせっそうばこ」

金箔箱

仏教の法会に必要な品を収めるための蓋なしの箱。金色が煌びやかで、土台の文様の使用がとても細かい!

輪繋ぎ文(わつなぎもん:ルーペで拡大された輪っかの形)を透かし彫りした金属板

の下に更に、貝殻がとても細かく且つ綿密に散りばめられている。

貝殻の虹色の輝きと金色の煌めきでとても豪華で派手な箱。

ばらばらする

サントリー美術館の好きなところは、展示スペースの中に階段があること!

階段展示スペース

階段のおかげで天井が高く頭上スペースも展示に活かして魅せられるのがとても良いなと思う。

サントリー美術館 サントリー美術館

テーマコンセプトは、本来セットの作品を敢えてばらばらにしてみるとどう見える?というもの。

手前が左側になっていて、裏に回って右側を見て、あぁこれだったか!と発見出来る展示。

サントリー美術館

蓋と土台との質感や模様が全然違ってて面白くて素敵だった「七宝飾花形鉄製銚子 しっぽうかざりはながたてつせいちょうし」

蓋は唐花文の七宝模様に菊型のつまみ。

身の形は5片の梅で鉄色一色でシンプル。

把手には唐草文の銀象嵌。

カラフルな蓋とシンプルな身と、その中間のような把手。

 

はこはこする

ざわつく日本美術

作品と箱を結び付けて展示するコーナー。

この箱の中身はどんなものでしょう?この作品はどんな入れ物に入っているでしょう?

そんなことを想像しながら矢印を進む見せ方。

 

この箱に入っているのはどんな物?

はこはこ

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正解は、これ!

「色絵春草文汁注」

汁物料理の汁を注ぎ足す為だったり蕎麦のつけ汁などを入れるための器とも言われている器。

カラフルな唐草文様、把手がなくころんとしていて小さくてなんとも可愛らしい。

 

こちらの「色絵鶴香合」

サントリー美術館所蔵

こちらも控えめな佇まいが何とも可愛らしい。

サントリー美術館

さてどんな箱に入っているでしょう?

⇒⇒⇒

正解は、こんな箱たち!

ざわつく日本美術

なんと三重。マトリョーシカ。

作品をより厳重に保管したり、持ち主が変わって新しく名前入りの箱を作る際に前の持ち主の箱を捨ててしまわずそのまま仕舞えるようにとしていくと段々と大きくなっていくのですね。

空き箱を捨てられない人の究極版のようにも思えなくもない‥かも・・

 

因みに鶴の中はこんな色だとのこと!

実際に見られないのが悲しい‥です…

 

ざわざわする

オナラ合戦?これも美術なの‥?ざわざわ・・・

美しいだけが美術じゃない!日本美術の懐の深さを展示。

 

明かりを落とした展示室の中でそこだけ光るガラスが浮かんでいて吸い寄せられてしまった「輪花縁氷コップ りんかぶちこおりコップ」

ウランの器

鮮やかな黄緑色が綺麗で目を引くこのガラスの着色料は、ウラン。

ウラン:原子番号92の元素。天然に存する元素のうち一番重い。核燃料として利用される。ウラニウム。

 

ウランガラスは1830年代にボヘミア(現チェコ共和国西部)で開発されたもので、日本でも明治時代から製造。独特の色調が人気だった模様。

微量とは言え核燃料が使用されて出来る色のガラス…そしてこのコップにかき氷を入れて食べると言う…ざわ…ざわ…

 

エピローグには、生活の日用品を収蔵するサントリー美術館としては珍しい仏像。

ある時は女の子に見えたり、またある時は女神に見えたり。

その日の心持で、見え方は変わる。

 

瓦版風なチケットもおもしろい

サントリー美術館

 

サントリー美術館での今までにないコレクション展となった「ざわつく日本美術」展。

従来の、ガラスの向こうに展示された作品をただ眺める、という方法とはまた一味違った作品の見方を楽しめる展示になっていた。けれど、ばらばらに並べてあみだくじのようにこれのペアはどれ?という見せ方は、作品本来の形が見えづらくなっていたように思う。

また見せたい部分がよく見えないものもあって、ちょっと残念。鏡の配置や明かりの調整などをもう少し頑張ってほしかったなというところ。

そしてガラスケースに結構埃がついていたのが、これ残念。

コンセプトとしてはエンターテイメント性を加えて若い世代の人にも来館してほしい、という狙いがあったのかどうかは定かではないけれど、実際の客層としては50代前後の人が多かったように思う。展示品が渋いからそうなるのも仕方が無い、ということになってしまうかもしれないけれど

美術館で博物館みたいな楽しみ方が出来て。

楽しい展示でした。

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